コラム
COLUMN
書き方
自分史執筆を継続するコツ
■最初から完璧に書ける人などいない
自分史を書き上げるには、膨大な時間がかかります。もちろん内容にもよりますが、様々な経験を経てきたであろう年配の方であればあるほど、その可能性は高くなると思います。せっかく貴重な時間を割くのだから、できることなら完璧に仕上げたいと考える人も多いです。
しかし完璧に書こうと思えば思うほど、自分の記憶力や文章力と理想とのあいだにギャップが生じ、自分史制作の途中でサジを投げてしまうケースも少なくありません。ただ、そうなってしまっては非常にもったいないですし、その後の継続も難しいでしょう。
そもそも実際問題として、最初から完璧に書ける人はほとんどいません。にもかかわらず、意気込みすぎて自らでハードルを上げてしまうから挫折してしまうわけで、逆に言えば最初は手探りくらいでちょうどいいのです。
■コツコツと書き進めるのがポイント
過去の記憶というのは、いくつかのエピソードを書き進めることで徐々に鮮明になり、複合的に深く思い出せていくものですから、最初から焦る必要は全くありません。
具体的な進め方としては、時系列などは一切度外視して、最も思い出せそうなエピソードから書き始めるのがベターです。例えば中学生時代のことがなかなか思い出せなかったとしても、小学生時代や高校生時代のエピソードが思い出せれば、そのあいだにある中学生時代の記憶も、おのずと思い出されるはずです。
人間の脳は、過去の記憶を深く思い出した時点から、さらにその先の記憶にたどり着けるようにできています。自分史執筆を焦ることはない、というのはこれが大きな理由です。
また、短時間に集中して一気に書き上げようとしても、なかなか記憶は思うように辿れないもの。むしろ毎日~数日おきにコツコツと少しずつでも様々なエピソードを書き進めるのがポイントで、この作業を繰り返すうちに脳の奥底に眠る数々の記憶が連鎖的によみがえってきます。
実際、これにって不鮮明な記憶が徐々に鮮明になるケースは多いです。そうやって少しずつ記憶の扉を開いていけば、ストレスを溜めることなくコツコツと自分史執筆を続けられるのではないでしょうか。
■物事を継続するための心構え
自分史を仕上げるまでに1年以上かける人がほとんどですから、やはりその肝は〝継続する力″になります。
「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています」。これは2004年、イチロー選手がメジャーリーグの年間安打記録を達成したときの会見で発した言葉ですが、これはまさに〝継続は力″ということを、人々に身をもって教えてくれた名言だと思います。
では、自分史執筆に限らず何事においても〝継続する″には、どのような心構えが必要なのでしょうか。いくつかのコツを紹介します。
・無理をしない
冒頭で「自分史執筆のハードルを上げすぎない」ことの大切さに触れましたが、何事においても継続できない最大の理由が「最初から無理をすること」。逆に言えば「最初から無理をしない」ことが、継続できる最大の秘訣です。
何かを始めようと思ったときというのは、その何かに対して最高にモチベーションが高まっている状態でもあるだけに、どうしてもそのノルマを高めに設定してしまいがち。
例えば筋肉隆々なボディを手に入れたいと思ったとして、最初に「トレーニングジムで筋トレを1時間行なう」と決めたとします。しかし慣れない体でいきなりハードな筋トレを行なったとしたら、翌日に体中が筋肉痛になり、もう二度と筋トレはしたくないと思ってしまうかもしれません。
逆に、「鉄アレイの上げ下げを自宅で毎日10分間行なう」というように最初のハードルを下げれば、きっと気軽に継続できるはず。誰しも早く目標にたどり着きたくて焦り、空回りしてしまうからこそ、むしろ最初の設定は物足りないくらいでちょうどいいのです。自分史執筆で言えば、「一日に必ず100文字以上書く」「月に一度、自分の過去にゆかりのある人に会ったり場所を訪れる」といった感じでしょうか。ともあれ、自分の状況に応じて無理のないノルマを設定すればいいと思います。
・最低限、必ず実行する内容を決める
継続が終わってしまう原因は、主に「忘れる」「忙しい」「体調不良」の3つ。自分の意志で継続を止めるのならば話は別ですが、継続したい気持ちがあるにもかかわらず何らかの都合で継続が止まってしまった際、それが契機となってズルズルとそのまま継続できない状態が続いてしまうケースはよくあります。
これを防ぐために効果的なのが、「最低限、実行する内容を決めておく」ことです。先に挙げた筋トレの例ならば、さらに敷居を下げて「最悪の場合、腕立て伏せ3回したらOK」、自分史ならば「一つのエピソードとして書けそうな項目を一つ挙げる」という感じで、どんな状況であっても簡単に継続できそうなノルマを決めておけば、継続終了の危機を回避することができます。
たったそれだけで何の意味があるのか、と思うかもしれませんが、継続の力を侮ってはいけません。先のイチロー選手の言葉のように、とにかく継続し続けることに意味があります。
ある目的に対して〝ほんの少しでもいいから毎日必ず行動する″ということが習慣になれば、継続が途切れることはありません。だからこそ「最低限、実行する内容を決めておく」ことが大切なのです。
特に自分史執筆は、継続すればするほど自らの過去が鮮明になるだけに、継続する価値が大きいと言えます。
こうして自分史を書き進めることに楽しさを感じることができれば、おのずとそれが日課になるでしょう。実際、自分史の執筆が定年退職後の生きがいになっている人も少なからずおられます。
さらに「自分の人生や思いを残す」というプロセスそのものが人生の充実につながり、自分史執筆という作業自体も自分史の一部になったとしたら、それは非常に素晴らしいことだと思います。
■まとめ
自分史を書き上げるには相応の時間と労力が必要になるだけに、それを仕上げるには〝継続力″が大切です。
とはいえ、自分史制作は筋トレのように辛く苦しいものではなく、考えようによっては過去の自分と向き合える楽しい時間でもあります。自分の楽しみのため、そして生きがいにするために、自らの記憶の扉をゆっくりと開いてみてはどうでしょうか。
最初から気合を入れずに肩の力を抜いて、毎日ちょっとずつ気軽な気持ちで取り組むことが長続きの秘訣です。