コラム
COLUMN
書き方
「自分史」の制作は、いつ着手するべきか
■自由度の高い媒体
自分史とは、「平凡に暮らしてきた人が、自身のそれまでの生涯を書き綴ったもの」。では〝それまで″というのは、いつからいつまでのことを指すのでしょうか。それはもちろん、生まれてから現在に至るまで。要するに書き手の年齢が幾つであれ、過去の自分の歴史は全て自分史の範疇です。
ということは、表題の「自分史の制作は、いつ着手するべきか」という問いに関しての答えは、「文章を書ける年齢になり、かつ自分を書こうと思い立ったらいつでもいい」ということ。身もフタもない回答かもしれませんが、そもそも自分史には〝こうあるべき″といった確固たる正解は存在せず、非常に自由度の高い括りのものなので、いつから書こうが、何を書こうが書き手の自由なのです。
■自分史を執筆している世代はどこか
では実際、自分史を執筆しているのは、どの世代が多いのでしょうか。専門のリサーチ機関調べによると、自分史制作に着手した年齢は60代~70代が約8割と圧倒的に多く、次いで80代、50代。やはりというべきか、自分史を執筆するほとんどが高齢者ということが、この数字からも分かります。
特に定年退職後は自由に使える時間が圧倒的に増え、人生の一つの区切りでもあるため、自分史制作に取り組みやすい条件が揃っているとも言えます。
とはいえ高齢者だけでなく、最近では小・中学校での授業の一環として「自分史制作」が課題になることもあります。自分のことを客観的に捉える練習として、あるいは両親や祖父母がいるから自分が存在しているということを再認識する取り組みとして、子どもたちに簡易な自分史を書いてもらうそうです。
大学生の就職活動時においても、エントリーシートの作成や面接の準備をするうえで最も重要になる「自己分析」に役立つことから、自分史を作成する学生が増えているのです。また、ちょうど人生の折り返しに差し掛かる40代での自分史執筆も、最近では増加傾向にあるそうです。
■自分史の作成期間の目安
このように、いまやあらゆる世代が執筆・制作する「自分史」ですが、やはりまだまだ一般的には高齢者が人生の集大成として、それこそ亡くなる間際に書くものというイメージを持っている人が多いというのが実情です。
しかし実際に自分史を制作しようと思えば、それなりに時間はかかるもの。先のリサーチ機関調べによると、「自分史の執筆期間」の項目では「1~3年」「3~5年」が同率でトップ。次いで「半年」「10~20年」という結果でした。自分がどんな作品にしたいか、どれだけ掘り下げて書きたいか、またその執筆ペースによって執筆期間は大きく変わってきますが、やはりある程度の製作期間がかかることは考慮しておく必要があります(なお、弊社のような自分史作成の専門業者に依頼すれば大幅に短縮できます)。
また、仮に着手から完成まで2年かかると想定しても、その大前提として、自分史を仕上げるためには頭も体も元気である必要があります。ということは、自分史を執筆するには、病床に伏してからでは少々遅いと言えるのです。
■自分史制作における最大のネック
自分史を執筆するうえで何より恐ろしいのが「認知症」、いわゆる老人ボケです(高齢者の方からすると「痴呆症」のほうが聞き覚えがあると思いますが、厚生労働省の指導で2004年から「認知症」に統一されています)。
自分史は基本的に、自分の記憶を頼りに綴っていくわけですから、認知症により記憶力が低下するということは、自分史に必要なエピソードが一つひとつ消えていくことと同義です。それに認知症が進行すれば、「自分史」というものが何なのかさえ分からなくなってしまうでしょう。つまり認知症を患ってしまったら、自分史を創ることは実質的に不可能です。
自分史制作に着手してから平均で約2年かかること、また様々な病気や認知症になるリスクも考えると、やはり衰えてから書くよりも、まだまだ元気なうちに取り掛かることを強くお勧めします。
■認知症の割合
厚生労働省調べによると、いま、65歳以上の7人に1人は認知症だそうです。この数字には軽度認知障害の方も含まれているので、実際の感覚だともう少し割合は低くなるでしょうか。ただ、当然ながら年齢と共に認知症の割合は増え、85歳~89歳は約40%、90歳以上だと約65%の方が認知症、または軽度認知障害だそうです。
ただ、逆に考えれば85歳を過ぎても半数以上の方は脳に問題がなく、過去の記憶がしっかり残っているとも言えます。脳が正常に機能していさえすれば、特に高齢の方だと時間はかかるかもしれませんが、自分史執筆に必要な記憶も思い出せるでしょう。
■認知症の主な症状
ちなみに認知症は、記憶の障害だけではありません。認知症の症状は主に「認知機能低下」と「行動・心理症状」の2つがあります。
まず、「認知機能低下」の症状は主に下記の5つ。
・記憶(記憶障害)
何度も同じ話を繰り返したり、約束やモノの保管場所をよく忘れたりする。火の元や電気の消し忘れ、鍵の閉め忘れ、薬の飲み忘れなどのリスクも。
・注意(注意障害)
注意力や集中力が低下する。注意力が散漫になり、同時に複数のことがしづらくなる。
・言葉(言語障害/理解力の低下)
適切な言葉が出てこなくなり、相手の話が理解しづらくなる。
・日付/場所(見当識障害)
今がいつなのか、今いる場所がどこなのかが、分かりづらくなる。
・段取り(実行機能障害)
計画や段取りなど、順序を踏まえた行動がしづらくなる。よって仕事や家事などに支障をきたす。
次に「行動・心理症状」ですが、これは簡単に言えば「認知機能の低下」により生じる行動で、その症状は様々。本人の性格や環境によっても変わりますが、主な6つの症状を下記に記します。
【暴言・暴力】:感情のコントロールが効かなくなる。特に怒りや衝動が顕著に
【無為・無関心】:やる気がおきず、日々の習慣だったことが面倒に
【不安・うつ】:できないことが増えて自信を失い、うつ状態に
【妄想】:ありもしないことを考えてしまう。特にお金に対する妄想が顕著に
【徘徊】:今いる場所が分からず、意味もなく外を歩き回ってしまう
【睡眠障害】:生活リズムが狂い、目覚めや寝つきが悪くなる
■認知症にならないために
では、認知症にならないためにはどうしたらいいのでしょうか。そのためのキーワードは「バランスの良い食事」「適度な運動」「人とのかかわり」。この3つに配慮しながら心身ともに健康的な生活を送っていれば、認知症になりづらいと言えます。あえて特別なことをせずとも、日々を健やかに過ごしていればおおよそ大丈夫ということですね。
逆に言えば、自宅にこもりきりで人とのコミュニケーションを取らなくなったり、運動不足になったり、栄養のバランスが偏ったりすると、認知症のリスクは高まります。また、脳を使って活性化させるというのも、認知症を防ぐうえでは有効です。ということは自分史を書くこと自体、認知症予防に繋がると言えるのです。過去を思い出すには、脳をフル回転させる必要があるわけですからね。
■まとめ
ともあれ自分史は、「一冊完成したら終わり」というたぐいのものではありません。ひとたび書き終えたとしても、そのあとも人生は続いていくわけですから、またどこかのタイミングで続編をつくればいいのです。別に書き始めの時期にこだわらなくていいというのは、これも理由の一つ。実際、超大作のように何冊かに分けて書いている方もおられます。
逆に「自分史=人生の集大成」と捉えていると、いつか書こう書こうと思っているうちに、書くタイミングを逸してしまうかもしれません。事実、こうしたケースも非常に多いです。
そもそも一般的に、若ければ若いほどたくさんのことを覚えていられます。ということは、もし自分史を作成したいと考えているのなら、やはり一日でも早く着手するのが最善であると言えそうです。