コラム
COLUMN
自分史の豆知識
SNSのルーツは「自分史」?
「自分史」という概念は、いつからあるかご存じですか。
まずその前提として「自分史」の定義をしたいと思うのですが、広辞苑には「平凡に暮らしてきた人が、自身のそれまでの生涯を書き綴ったもの」と記されています。要するに「自分史」は、有名人や経営者が出版するような自伝や回顧録の、一般人版というわけです。
では、「自分史」という言葉が誕生したのはいつごろか。これは1975年、歴史家の色川大吉氏が著した「ある昭和史 - 自分史の試み」が最初だと言われています。一億総中流、没個性の時代において、一般人が表現することの歴史的意義が、色川氏の提唱する「自分史」という考え方によって顕在化したのです。
いまはツイッターやフェイスブック、インスタグラム、ブログ、YouTubeなどインターネットを中心として個人の表現や発信の場はたくさんありますが、当時はそんなものは全くありません。つまり「自分史」は、SNSなどで個人が発信する活動のルーツと言えるかもしれません。
ただ、当初は個人の思いを記すというよりはむしろ、戦争体験を記録するという意味合いが強かったようです。いわば歴史的資料としての一環ですね。その後、「自分史」は高齢者向けの生涯学習の一環としてにわかに注目をされるようになるのですが、その発展を阻んだものがありました。それが悪徳出版社の存在です。
自社の売り上げを上げたいがために、詐欺まがいの法外な自費出版の費用を強要する出版社が現れたことで、「自分史」を敬遠する人が増えたそうです。
高齢者の7割が「自分史を残したい」と考えているにもかかわらず、実際に作成する人が少ないのは、こうした悪徳出版社の影響もけっこうありそうです。もちろん、まっとうに活動している出版社のほうが圧倒的に多いのですが、どうしても悪評は目立ってしまうのです。
とはいえ1993年には、自分史関連の団体が発足。それを機に全国各地で自分史だけを集めた図書館や自分史関連の施設も誕生しています。さらに最近では、自分史関連のセミナーや講座が各地で開催されています。大手新聞の広告でも、「自分史」の文字が躍るようになりました。
人々の価値基準が「物質的な豊かさから精神的豊かさ」へ徐々にシフトしている時代において、印刷・製本技術の向上やSNSの登場によって自己表現の敷居が下がっていることもあり、再び「自分史」制作に着手する人も増加傾向にあります。いずれにせよ、「自分史」を通じて人生の充実や心の豊かさにつながっていけば、それは素晴らしいことですよね。
ちなみに国連の「世界幸福度ランキング2020」では、1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位ノルウェーと福祉が充実している北欧が上位を占め、日本ははるか後方の62位。特に日本で評価の低い項目が「主観満足度」と「寛容さ」だそうです。そのなかで「自分史」が、「主観満足度」の向上につながっていけば幸いです。